向田邦子 暮しの愉しみ

向田邦子暮らしの愉しみ
September 22, 2015
written by 四方田 裕弘
向田邦子 暮しの愉しみ
新潮社  初版出版日 2003年6月25日

旅好き、美味しいもの好きの向田邦子の
旅や食べ物にまつわるエッセイを引用したフォトエッセイ。

自宅の棚には“う”の抽斗なるものがあったとか。

いつか取り寄せようと思っていたお店の包紙や栞をしまっておいた抽斗。

“う”は“うまいもの”の“う”。

そのうまいもの好きが高じて、
昭和53年に赤坂で、妹の和子さんと小料理屋「ままや」をオープンしてしまうほど。

ときに料理は、食べた当時を思い起こさせてくれる。

母の作った肉じゃが。旅の途中にふらっと寄った飲み屋で食べた煮物。

向田邦子の料理は、ちょっと哀しいことがあったとき、ふと懐かしさがこみあげるようなときに似合う。

作家の村松友視は、自身のエッセイ集「奇天烈食道楽」で、味のぶれについて触れている。

ある老舗料理旅館の女将は、泊り客にはプロの料理を出す立場だが、自分の食卓では、自らの手料理を食べる習慣を続けているという。

プロの料理はぶれがなく、いつも一定した同じ味だが、素人料理は味のぶれによって同じ献立でも毎日別な味わいを得ることができるという。

毎日食べる家庭料理の真髄は、その味のぶれにあると。

料理、器、旅行先など向田邦子のファンの心に沁みる、“ぶれ”が垣間見える一冊。