コラム

「カリフォルニア・デザイン1930-1965―モダン・リヴィングの起源―」展

karifo
May 26, 2013
written by S.M

カリフォルニア・デザインの辿った軌跡は、明るく時代を突き進む勢いを強く感じます。アメリカは第2次世界大戦の終戦を迎えたことにより、「これからの世界は明るく、自由で、平和になっていく」と誰もが予感する希望に溢れた雰囲気が満ちていました。また、それまでの戦争という負の要因によって次々と開発・改良された科学技術が、今度は日常生活をより便利で快適なものに変えていく技術として用いられることとなり、市民生活の中で新たな役割を得ていきます。宇宙へのイメージを感じさせる大胆な流線型のデザインや、イームズ夫妻が研究を重ねて実用化した成型合板やプラスチックの椅子など従来の重厚感のある家具やスタイルを一新する、カラフルでインパクトのあるものがこの時代に多く生まれました。

また、工芸の分野でも新たな素材や技術を用いて表現する作家が多く輩出されました。それらは手仕事の美しさを残しながら、制作過程に工夫を重ね、工場とのすばらしい連携を保つことにより従来よりも安価でデザイン性に富んだ商品を広く供給できるようになったのです。こうしてよくデザインされた商品を手に取る喜びが多くの人々に広がり、産業は活発化していきます。

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この時代特有の解放感は、人々が住まいでどのように暮らしたいかというイメージにも多大な影響を与え、カリフォルニアでは庭と住空間の境目をなくして外と内とを繋ぐ住宅が人気を集めました。刻一刻と変化する自然環境に家ごと抱かれるような解放感はカリフォルニアの豊かな土地と融合して次第にアメリカの憧れとなっていきます。住まいのデザインはその時代背景や人々の心情、欲望をよく表すのだと改めて感じる例です。現代においては人口の増加や世界情勢も関係して、外へ開かれる住宅とは反対の内へと閉ざされた住宅が多いです。しかし、住宅とは安全面の品質をしっかり保ちつつも外界との繋がりがうまく表現されていなければ暮らしの豊かさとは遠くなってしまうのではないでしょうか。

かつて希望に溢れる時代に生まれた、普遍的な魅力を放つカリフォルニア・デザインを通して、今この時代に描きたい住まいの形へと思いを馳せたくなる展示です。夢のあるデザインを現実にしていく情熱が当時のカリフォルニアにはありました。そして現代に生きる私たちはきっと、その情熱を再び得ながら時代に合った心地よさを探しているところなのでしょう。

国立新美術館
2013年3月20日(水・祝)―6月3日(月)