コラム
古い建物や街並みは語る

December 26, 2015
written by 四方田裕弘
written by 四方田裕弘
懐古主義的な発想はあまり好きではないが、私は古い建物が好きである。
人にはそれぞれの歴史がある。
あのころ…と一言とっても、私のあのころ、父母のあのころ、祖父母のあのころでは情景もにおいも異なる。
あの建物の前で、あの木の前で、私があなたと同じ年頃のときは…こんな事を考え、こんな思い出があった。あのころはよくそんな会話をした。
古い建物や街並みは、祖父母の時代、父母の時代の空気やにおい、思い出を今に伝えてくれる。私のそれも、子供や孫に伝えてくれる。
それぞれのあのころを繋いでくれる。
私が古い建物や街並みが好きな由縁である。
先日、表参道ヒルズに行った。
同潤会の一部を保存していると聞いたが、なにをあれは骸だ。
剥製を指して、これぞ野生の虎よと言わんがごとし。
仕事は真似である。弟子は師匠を真似て仕事を覚えるのだ。
これから建築を目指すものは、あれを建築保存だと思うだろう。
周りを見渡してみよ。すでに明治、大正はなく、昭和がちらほらあるのみだ。
東京には、過去が少なくなってきた。
過去は基本である。
基本を失ったものほど脆くて弱いものはない。